POETRY

生徒諸君に寄せる

宮沢賢治

 

Published in probably 1927|Archived in December 1st, 2023

Image: Alexander Rodchenko, "Oval Hanging Construction No12", 1920.

CONTENTS

TEXT

EXPLANATORY|SPECIAL NOTE

原文ママ。
出典元は『新修 宮沢賢治全集』(筑摩書房)を底本としているが、「生徒諸君に寄せる」は編者・天沢退二郎の意図により(草稿原形に準じるかたちで)底本とは異なる本文を採用している。たとえば、本稿の「サキノハカ〔以下空白〕 〔九字分空白〕来る」は、底本では「サキノハカといふ黒い花といっしょに 革命がやがてやって来る」である。

BIBLIOGRAPHY

著者:宮沢賢治(1896 - 1933)
題名:生徒諸君に寄せる
初出:おそらく1927年
出典:『新編 宮沢賢治詩集』(新潮社。1991年。263-269ページ)

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この四ヶ年が
    わたくしにどんなに楽しかったか
わたくしは毎日を
    鳥のやうに教室でうたってくらした
ちか って ふが
    わたくしはこの仕事で
    つか れをおぼえたことはない

 

 

 

  ( 彼等 かれら はみんなわれらを去った。
   彼等にはよい遺伝と育ち
   あらゆる設備と休養と
   ここ にはあせ 吹雪 ふぶき のひまの
   ゆが んだ時間と 粗野 そや な手引があるだけだ
   彼等は百の速力をもち
   われらは十の力を たぬ
   何がわれらをこの暗みから救ふのか
   あらゆるつか れとなや みを燃やせ
   すべてのねがひの形を変へよ)

 

 

 

新らしい風のやうにさわ やかな星雲のやうに
透明 とうめい 愉快 ゆくわい な明日は来る
諸君よこん いろした 北上 きたかみ 山地のある稜は
すみや かにその形を変じよう
野原の草はにわ かにたけ を倍加しよう
あらたな樹木や花の群落が
    、
    、
    、
    、
    、
 

 


 諸君よ 紺いろの地平線がふく らみ高まるときに
 諸君はその中にぼっ することをほっ するか
 じつに諸君はその地平線におけ
 あらゆる形の 山岳 さんがく でなければならぬ

 

 

 

サキノハカ〔以下空白〕
〔約九文字分空白〕来る
それは一つの送られた光線であり
決せられた南の風である、
諸君はこの時代に ひられひき ゐられて
奴隷 どれい のやうに 忍従 にんじゅう することを欲するか
むしろ諸君よ さら にあらたな正しい時代をつくれ
宙宇は絶えずわれらに って変化する
潮汐や風、
あらゆる自然の力を用ゐつく すことから一足進んで
諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ

 

 

 

新らしい時代のコペルニクスよ
余りに重苦しい重力の法則から
この銀河系統を解き放て

 

新らしい時代のダーウヰンよ
更に東洋風静観のキャレンヂャーに って
銀河系空間の外にもいた って
更にも透明に深く正しい地史と
増訂 ぞうてい された生物学をわれらに示せ

 

衝動 しょうどう のやうにさへ行はれる
すべての農業労働を
冷く透明な 解析 かいせき によって
そのあゐ いろの影といっしょに
舞踊 ぶよう 範囲 はんゐ に高めよ

 

素質ある諸君はたゞにこれらを刻み出すべきである
おほよそ統計に従はば
諸君のなかには少くとも百人の天才がなければならぬ

 

 

 

新たな詩人よ
あらし から雲から光から
新たな透明なエネルギーを得て
人と地球にとるべき形を暗示せよ

 

新たな時代のマルクスよ
これらの 盲目 まうもく な衝動から動く世界を
素晴しく美しい構成に変へよ

 

諸君はこの 颯爽 さっそう たる
諸君の未来圏から いて来る
透明な清潔な風を感じないのか

 

 

 

今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば
われらの祖先 乃至 ないし はわれらに至るまで
すべての信仰や徳性はたゞ誤解から生じたとさへ見え
しかも科学はいまだに暗く
われらに自殺と 自棄 じき のみをしか保証せぬ、

 

だれ が誰よりどうだとか
誰の仕事がどうしたとか
そんなことを云ってゐるひまがあるのか
さあわれわれは一つになって〔以下空白〕