その 狂妄 の 群 を 外 に、
襟 を 正 して 南歐 の
聖者 の 聲 に 耳立 てよ、
遠 きいにしへアゼンスの
聖 と 其軌 を一にして、
『 Pensiers ed Azione , Dio e il popylo 』の
哲理親 しく 身 に 踏 める
ヂユセプ・マチイニ、 崇高 の
「 改造 の 權化 」、 末世 の 聖徒 、
『 其 の 心臟 を 開 き 見 ば
「イタリヤ」の 文字認 むべき』」
彼 ロンドンの 孤舘 の 夜半 、
筆 を 下 しゝ千 古 の 教
經綸 の 策 、 治國 の 道 、
宇宙 の 底 に 潜 み 湧 ける
幽玄神秘 の 聲 に 和 して
殘 しし 言 に 耳立 てよ。
春蠶吐 きなす 幾丈 の 糸 、
賢人書 き 残 す 幾巻 の 書 か、
一千八百七十二、
傾斜 の 塔 のピサに 逝 ける
六十七 年生 を 収 めて、
粘 を 解 き 縛 を 去 る
靈 は 無窮 の 光逐 ふ。
瑤琴 ひとり 愁 を 抱 き
その 人間 の 世 にとめし
精華幾片前 に 見 る
冷笑 の 聲 無恥 の 聲 、
懐疑 の 聲 は 曰 ふ 古 しと、
しかなり 古 し、 古 し、 古 し、
古 し 人間 の 情 と 等 しく、
古 しアルプスの 雪 と 等 しく、
古 し 地球 の 生 と 等 しく、
古 し 太陽 の 熱 と 等 しく、
古 し 星宿 の 列 と 等 しく、
古 し 宇宙 の 大 と 等 しく、
古 し「 永遠 」 自個 と 等 しく。
編者註(保田與重郎編『土井晩翠詩集』より)
アゼンスの聖ーーソクラテス、其哲学を身に實行した人。
ペンシイレーー「思想と行爲、神と人民」これがマチイニの標語であつた。『思想と行爲』といふ題名の雑誌を刊行したこともあつた。
其の心臓を開き見よーーマチイニ自らの言「わが心臓を開き見よ、イタリヤといふ字がそこにあらう」
「主人さりて……」は「主人去りてそのかたみ」といふ句がなく「わが人間の世に……」が「その人間の世にとめし」(編者註)