8
アリストテレス
ーーヘラクレイトス曰く、「対立闘争しつつあるものは結合しつつあるものである」そして「多様性から 至妙 な階調が生まれる」そして「すべては葛藤によって存在している。」〔『二コマコス倫理学』K5. 1176 a 7〕
10
擬アリストテレス
ーーだが、いうまでもなく、自然は対立物に接近していってそしてその対立物からある同音調を得るのであって、同類物に接近するのではない。たとえば、自然と雌と雄を結びつけたものであって、この二つのものをその同類に結びつけたのでないことは疑うべくもない。また自然は最初の階調を対立性の力を借りて確立したものであって、同似性を通じて確立したのでないことも疑えない。また芸術も、自然に 擬 して、これと同様なことをしているかに見えるのである。なんとなれば絵画は白や黒や黄や赤やの色を巧みに混合して、その描写しているモデルの自然の姿に似た姿を得るのであるから、また音楽は高音と低音、長音と短音を一緒に混合して、雑多な音から統一ある階調を得るのである。また文法学は母音と子音を対校して、これらのものから全一なる技能を作り上げるのである。そして 碩学 ヘラクレイトスのつぎのごとき格言もかかる意味のものであった。「連絡ーー全一なるものと全一ならざるもの、結合しつつあるものと分立しつつあるもの、階調的なものと非階調的なものの連絡ならびにすべてから統一が、そして統一からはすべてが生ずるところの連絡」ーー〔『宇宙論』5. 396 b 7〕
12
アレイオス・ディデュモス
ーー「同じ流れに入る人には、次々と新しい水が注いでくる。」〔エウセビオス『福音の準備』XV 20〕
〔当部註:校訂に使用した『断片集』(312ページ)ではこうつづく。「しかし,魂もまた,湿ったものから蒸発しているのである」〕
21
クレメンス
ーーそしてヘラクレイトスはーーつぎのような言葉を使ってーー死を誕生だと呼んだのではなかったか? 「死とは我々が醒めていながら見るすべてのものであって、眠りながら見るのは夢である」〔『雑録集』Ⅲ21〕
30
クレメンス
ーー「この宇宙〔コスモス〕は誰にとってもおなじものであって、神々にせよ人間にせよこれを創造したものは誰もないのである。だがそれは永遠の昔から在ったし、現に在り、そして永遠に生きた火でーー正密に燃え尽くしていく火でーーあるであろう」と。〔『雑録集』Ⅴ105〕
〔当部註:『断片集』(317ページ)ではこうつづく。「ーーー定量だけ燃え,定量だけ消えながら.」〕
49a
ヘラクレイトスの寓意
ーー「同一の河流には入ることもできればまた入ることができないでもある。またそのなかには存在することができもすればできないでもある。」〔『ホメロスの比喩』24〕
〔当部註:『断片集』(322ページ)ではこう訳される。「同じ河流に,われわれは足を踏み入れているし,また踏み入れていない.われわれは存在しているし,また存在していない.」〕
50
ヒッポリュトス
ーーかくのごとくヘラクレイトスは曰く、「すべては統一的であるーー分たるもの分たれざるものーー生み出されたるもの生み出されないものーー死すべきもの不死なるもの、ロゴスーー永遠性、父ーー息。神は公正である。」「諸君は私に傾聴しないでロゴスに傾聴して、統一がすべてであることに賢明に同意せねばならぬ。」〔『全異端派論駁』Ⅸ 9〕
〔当部註:『断片集』(323ページ)ではこう訳される。「たしかにヘラクレイトスは,万有は分割されうるものにして分割されざるもの,生成したものにして生成せざるもの,死すべきものにして不死なるものである,と言い,またそれは永遠の 理 (ロゴス)であり,父にして子であり,公正なる神である,と言っている.」「私にというのではなく,この 理 (ロゴス)に聞いてそれを理解した以上は,それに合わせて,万物は一であることに同意するのが知というものだ」〕
51
ヒッポリュトス
ーー「人々は異物がいかにしてそれ自身をもって一致せんとしているか、すなわち弓の余韻と七絃琴の余韻がいかに一致しているかを理解していない。」〔『全異端派論駁』Ⅸ 9〕
〔当部註:『断片集』(323ページ)ではこう訳される。「どうして不破分裂しているものが,みずからと一致和合している(理を一つにしている)のか,彼らには理解できない.逆向きに働き合う一体化(調和)というものがあって,例えば弓や竪琴の場合がそれである.」〕
53
ヒッポリュトス
ーー「戦争はすべての父であり、王である。それはある者を神々となし、ほかの者を人間となし、ある者を奴隷となし、ほかのものを自由人たらしめる。」〔『全異端派論駁』Ⅸ 9〕
60
ヒッポリュトス
ーー「上り路と下りは一つものである。」〔『全異端派論駁』Ⅸ 10〕
61
ヒッポリュトス
ーー「海は最も清潔なそして最も汚濁な水であって、魚のためには飲料であり 恩沢 であるが、人間にとっては有毒な飲料である。」〔『全異端派論駁』Ⅸ 10〕
62
ヒッポリュトス
ーー「不死なるものは死すものであり、死すべきものは不死なるものであって、その死によって生きているものはその生によって死しつつあるものである。」〔『全異端派論駁』Ⅸ 10〕
64, 65, 66
ヒッポリュトス
ーー「だがさらに曰く、宇宙とすべてのものとの法廷があって、その法廷においては火の力を借りて行われる、と。そして「すべてのものの舵は電光である」。すなわち電光がすべてを指向するといい、永遠の火は電光であるといっている。そしてさらに曰く、この火は合理的であって、それはすべての世界秩序の原因である、と。そしてこの火を『欠乏と飽満』と名付けていた。この欠乏は、彼に従えば、宇宙を秩序付け、また宇宙に点火するのは飽満である。」〔『全異端派論駁』Ⅸ 10〕
〔当部註:『断片集』(327-328ページ)ではこう訳される。「「万物を雷電が 舵 取る」すなわち導く,とされる.「雷電」とは永遠の火のことを言っているのである.彼はまた,この火が知性を有しており,世界総体を支配する原因であるとも言っている.」「その火を指して彼は「欠乏と飽食」と呼ぶ.彼によれば,秩序ある世界の形成が「欠乏」に当たり, 世界焼尽 が「飽食」である.」「彼は言う.「すなわち,火が到来して万物を裁き,追求する(有罪を宣告する)であろう.」〕
67
ヒッポリュトス
ーー「神は、昼と夜、冬と夏、戦争と平和、豊満と飢餓。」(すべての対立物であるが、神自身は理性〔ロゴス〕である)〔『全異端派論駁』Ⅸ 10〕
〔当部註:『断片集』(328ページ)ではこうつづく。「これが変化するのは,あたかも〈火〉の場合に,香料と混ぜられると,それぞれの(芳香物の)香りに応じて呼び名が付くのと同様である.」〕
76
ティロスのマクシモス
ーー「火は土の死によって生き、そして空気は火の死によって生き、水は空気の死によって生きていって、土は水の死によって生きる。」〔『哲学談義』XLI 4 o.489〕
80
オリゲネス
ーー「だが戦争は一般的なものであり、そして真理は葛藤であり、そしてすべては葛藤と必然性によって生み出されているということを、認識しなければならぬ。」〔『ケルソス論駁』Ⅵ 42〕
88
擬プルタルコス
ーー「生きているものと死んでいるもの、醒めているものと眠っているもの、若いものと老いたるものはいずれも一つである。けだし一は死滅した他であり、他はまた死滅した一であるから。」〔セクストス・エンペイリコス『ピュロン主義哲学の概要』Ⅲ 230〕
〔当部註:『断片集』(335ページ)ではこう訳される。「そして,生きている間も死んで〔原文ママ〕後も,目覚めているときにも眠っているときにも,また若かろうと老いていようと,同じ一つのものがわれわれの内に宿っている.なぜなら,このものが転じてかのものとなり,逆にかのものが転じてそれになるからである.」〕
90
プルタルコス
ーー「そしてすべては火に替えられ、そして火はすべてに替えられる。あたかも財産が黄金に替えられ、黄金が財産に替えられるがごとく。」〔『デルポイのEについて』8 p. 388 E〕
91
プルタルコス
ーーヘラクレイトスによれば「同一の河流に身を入れることはできない。」〔『デルポイのEについて』8 p. 388 E〕
〔当部註:『断片集』(335ページ)ではこう訳される。「ヘラクレイトスによれば,「同じ川に二度入ることはできない」し,総じて死すべき(移ろい行く)ものに対して,それが〈同一のものの〉持続状態にあるところを,二度触れることはできない.むしろ,変化の激しさと急速さのために,「分散し,そしてまた寄り集まり」(いやむしろ,「そしてまた」とか「のちに」とかではなく,同時に,一つに 纏 まるとともに離れ去っていくのであり),「寄り来たり,遠ざかる」のである.」〕
103
〔テュロスの〕ポルピュリオス
ーー「けだし円周上の端緒と限界とは共通であるから」ーー〔ホメロス「イリアス」についての諸問題』:XIV 200 への註〕
111
ストバイオス
ーー「病気は健康を貴重なものとなし、悪を善となす。飢餓は飽満であり、 奔命 は安静である。」〔『精華集』Ⅲ 1, 176〕
〔当部註:『断片集』(341ページ)ではこう訳される。「病気は健康を,飢餓は飽食を,疲労は休息を快適にして善いものにする.」〕
126
ツェツェス
ーー「冷たいものは暖められ、熱いものは冷まされ、潤ったものは乾かされ、干からびたものは水気を帯びる。」〔『「イリアス」解講』への古注 p.126 Herm.〕