MUSIC

日本人への手紙

アルノルト・シェーンベルク

『シンフォニー』編集部訳

Published in 1912|Archived in May 9th, 2024

Image: Egon Schiele, “Portrait of Arnold Schönberg”, 1917.

CONTENTS

TEXT

EXPLANATORY|SPECIAL NOTE

本稿は、アルノルト・シェーンベルクが、日本の『シンフォニー』誌に寄稿した手紙の全文である。
原文ママ。
旧字・旧仮名遣いは現代的な表記に改めた。
底本の行頭の字下げは上げた。

BIBLIOGRAPHY

著者:アルノルト・シェーンベルク(1874 - 1951)訳者:『シンフォニー』編集部訳
題名:日本人への手紙原題:シェーンベルクの手紙ーー日本の愛好家へ寄すーー
初出:1948年4月
出典:『シンフォニー 第六輯』(東寶音樂協會。1948年4月。1ページ)

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お手紙によって、終戦後の日本の音楽会の事情を詳しくお知らせいただき、嬉しく拝見しました。日本の音楽愛好家の関心が、西洋音楽にあることを知って、非常に愉快に感じました。とくにある問題を指定してお知らせくだされば、さらにこれをテーマとして、詳しい私のメッセージをお送りする用意がありますが、いまその前に一言、申し上げたいことがあります。
 
それを、仮に「音楽愛好家へ寄せる言葉」としますならば、私はまず、音楽形式にとらわれるべきではない、と申し上げたいのです。私にとって、音楽愛好家というものは、やはり愛好家であって、音楽形式の愛好家ではないのです。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ワーグナー、マーラー、リヒャルト・シュトラウス、およびオプエンバック、ヨハン・シュトラウス、さらにまた現代音楽と、いずれの場合にあっても、音楽は音楽そのものであり、すべて愛好の対象に値するものなのです。
 
我々西洋音楽作曲家にとって、我々の文化の基盤となった数世紀の伝統は、決して忘れ得ないという意見は、おそらくあなたの同感を得ることと思います。我々は現代人であり、現代式のものの考え方が要求するところに合わせて行為せねばならぬということも心得ているにかかわらず、以前として我々は、先輩に負うところを決して忘れ得ないのであります。
 
かくして我々が、その業績の評価を期待する場合には、先輩に負うところを認識して、我々の成功の一部を彼ら先輩に帰することを、願うものであります。
 

アルノルトシェーンベルク